Hearing X Musical Illusion
Jekyll and Hyde
Leonid ZVOLINSKII
2021.9.30
Musical illusionでは、シリーズAuditory Illusion in Music(音楽におけるイリュージョン)とリンクして、テーマごとに出てきた錯聴効果を使った新作を、作者の作品解説と共に公開していきます。(*こちらの記事は過去に「Hearing X -『聞こえ』の森羅万象へ -」に掲載されたものをアーカイブとして公開しています。)
Jekyll and Hyde / Leonid ZVOLINSKII
小説「ジキル博士とハイド氏」は、一人の人間の二面性(二重人格)を描いた有名な作品ですが、今回はこの作品になぞらえて、時間知覚の錯聴効果を音楽作品にしました。一つの楽器が二つのパートのポリフォニーのように聞こえる「擬似的ポリフォニー」とは、どのようなものでしょうか。
作曲者作品解説
<Jekyll and Hyde>という曲では、偽のポリフォニーという錯覚を利用して、実際には1つの楽器のパートが知覚上2つのラインに分割されています。この作品は、小説と同じように、ディストピア・スリラー(ホラー)のジャンルで、サックス・ソロとライブ・エレクトロニクスのために書かれています。ロバート・スティーブンソンの小説「ジキル博士とハイド氏の驚くべき物語」をベースに、殺人者と医者という全く異なる2人の人物が、同じ人間の2つの人格であることを描いています。
曲の冒頭では、低音部の不吉な轟音の電子音と高音部の澄んだサックスの音という、全く異なる音が交互に鳴っているのがはっきりとわかります。しかし、曲が進むにつれて、これらの異なる音は、実はずっと同じ楽器(電子処理されたサックス)であることがわかります。徐々に低い音が高くなり、その部分が高い音に近づき、高い音は電子音の歪みが大きくなり、低い音の性格に近づいていきます。クライマックスでは、2つのパートが絡み合い、偽のポリフォニー効果で融合するのが聴こえてきます。同じ楽器であることは明らかですが、殺人鬼の悪役と尊敬される高貴な医師の分裂した人格のように、2つのラインを含むメロディーを同時に演奏しているのです。ソロの1つのパートに2つのメロディがあるのは、1つの心に2つの人格があるように聞こえます。
01:39 - この素材は、それぞれの音が別々に、ゆっくりとしたテンポで演奏されると、1つのパートとして認識されます。
01:50 - 速いテンポでの加速と偽のポリフォニーが始まり、1つのサックスのパートが2つのライン、2つの平行したメロディーとして聴こえます。この分岐点がクライマックスにつながり、その後、ジキルとハイドが実は同一人物であったことが明らかになるというフィナーレを迎えます。
この偽りのポリフォニーの錯覚は、この曲の最も重要な場所(中間部の後、クライマックス)で発生します。技術的には柏野牧夫氏の著書『音のイリュージョン』や、イリュージョンフォーラムで紹介されています。
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(作曲=Leonid ZVOLINSKII / 翻訳=森谷 理紗)
Profile
ロシアの作曲家、マルチインストゥルメンティスト、サウンドプロデューサー。 リャザン市生まれ、幼少期より音楽を始め、12歳で「若手作曲家コンクール」で優勝。モスクワ私立音楽学校特待生。グネーシン音楽アカデミーカレッジ音楽理論科卒業後、P.I.チャイコフスキー記念モスクワ音楽院作曲科入学。同音楽院を首席で卒業。リトフチンテレビ・ラジオ放送人文大学専門コースで「オーディオビジュアルアートサウンドプロデューサー」資格取得。 オーケストラ作品、室内楽、声楽曲等のアカデミック音楽作品のほか、ポップ、ロック、Hip-Hopなど様々なジャンルの作曲、演奏を行う。映画音楽、CM、音楽舞踊劇等を手がける。
神奈川県生まれ。北鎌倉女子学園高校音楽科卒業。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院音楽研究科修了。グネーシン音楽アカデミー研修(音楽史・音楽理論)を経てP.I.チャイコフスキー記念モスクワ音楽院大学院博士課程学際的音楽学研究科修了(芸術学/音楽学博士)。2010年度外務省日露青年交流事業<日本人研究者派遣>受給。その後同音楽院作曲科3年に編入、その後卒業。モスクワ音楽家協会150周年作曲コンクールグランプリ。著書”Vzoimoproniknovenie dvyx muzikal’nyx kul’tur s XX - nachala XXI vekov : Rossia- Iaponia(20世紀から21世紀初頭にかけての二つの音楽文化の相互作用:ロシアと日本)”(2017 サラトフ音楽院)で第2回村山賞受賞(2018)。モスクワ音楽院客員研究員を経て、大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター客員研究員。