Hearing X Musical Illusion
Birds
Leonid ZVOLINSKII
2019.10.2
Musical illusionでは、シリーズAuditory Illusion in Music(音楽におけるイリュージョン)とリンクして、テーマごとに出てきた錯聴効果を使った新作を、作者の作品解説と共に公開していきます。(*こちらの記事は過去に「Hearing X -『聞こえ』の森羅万象へ -」に掲載されたものをアーカイブとして公開しています。)
Birds / Leonid ZVOLINSKII
作曲者作品解説
本作は、冬に別れを告げ、春を迎えるマースレニツァという儀礼のためのロシア民謡を基にしています。 春の鳥たちが飛んで来ると、人間の声は自然の中に溶けて最後には鳥の歌だけが残ります。 人の歌から鳥の歌へ、モーフィングを適用した作品になっています。
この例では、「人間の」歌のメロディが徐々に鳥の歌のイメージ(像)に近付いていく様子が聴こえます。本作で使用した音楽描写の表現手法には何通りかあります。
1.イメージの音響描写
音楽が作品のタイトルにかかる全体のイメージ、アイデアを伝えるもの。この作品では「鳥」。
2. 装飾的音響描写
トリル、装飾音符などの音楽の装飾。イメージのスペクトル全体を表す方法。例えば、鳥のさえずり、小川のせせらぎ、風が吹く音など。装飾の拡張によってメロディは次第に「鳥」の特徴を帯びてゆき、人間の世界から自然の世界へ移り変わっていきます。
[例02](Пマークは元のメロディの音を表す。その他の音は装飾。)
3.音響模倣
装飾的音響描写のより発展したもの。音の装飾だけではなく、小さなメロディックな節を伴い、音域、リズム、動きの方向などを模倣して、像をより正確に表現する。
【本作中で模倣されている鳥の声の例】
カッコウ(ホルン)[例03]
ハト(フルート)[例04]
シジュウカラ(トランペット)[例05]
キビタキ(チェロ)[例06]
4.技術的音響模倣
自然や都市の音による描写のために、楽器の特殊奏法を使用した。例えば作中の管楽器におけるバルブをクリックする「キーパーカッション」はたくさんの鳥の羽ばたきを模倣している。
[例07]
(作曲=Leonid ZVOLINSKII / 翻訳=森谷 理紗)
Profile
ロシアの作曲家、マルチインストゥルメンティスト、サウンドプロデューサー。 リャザン市生まれ、幼少期より音楽を始め、12歳で「若手作曲家コンクール」で優勝。モスクワ私立音楽学校特待生。グネーシン音楽アカデミーカレッジ音楽理論科卒業後、P.I.チャイコフスキー記念モスクワ音楽院作曲科入学。同音楽院を首席で卒業。リトフチンテレビ・ラジオ放送人文大学専門コースで「オーディオビジュアルアートサウンドプロデューサー」資格取得。 オーケストラ作品、室内楽、声楽曲等のアカデミック音楽作品のほか、ポップ、ロック、Hip-Hopなど様々なジャンルの作曲、演奏を行う。映画音楽、CM、音楽舞踊劇等を手がける。
神奈川県生まれ。北鎌倉女子学園高校音楽科卒業。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院音楽研究科修了。グネーシン音楽アカデミー研修(音楽史・音楽理論)を経てP.I.チャイコフスキー記念モスクワ音楽院大学院博士課程学際的音楽学研究科修了(芸術学/音楽学博士)。2010年度外務省日露青年交流事業<日本人研究者派遣>受給。その後同音楽院作曲科3年に編入、その後卒業。モスクワ音楽家協会150周年作曲コンクールグランプリ。著書”Vzoimoproniknovenie dvyx muzikal’nyx kul’tur s XX - nachala XXI vekov : Rossia- Iaponia(20世紀から21世紀初頭にかけての二つの音楽文化の相互作用:ロシアと日本)”(2017 サラトフ音楽院)で第2回村山賞受賞(2018)。モスクワ音楽院客員研究員を経て、大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター客員研究員。